遺言執行者は、遺言者が残した遺言の内容を実現する者です。
遺言者が死亡すれば、遺言者が遺言の内容を実現することができません。
遺言執行者を選任しなければ、遺言を作成したにもかかわらず、その手続が進まないことも考えられます。
そこで、遺言執行者を指定しておくことで、遺言の内容をスムーズに進めることができます。
では、遺言執行者とは、どのような手続を行うのか、どのような権限を有しているのか、詳しく解説します。
目次
遺言執行者が行う手続きや流れとは?!
遺言執行者に指定・選定されても、必ず遺言執行者になる必要はありません。
遺言執行者は、就職を承諾したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項)。
遺言執行者は、相続人を確定させるため、戸籍(除籍、原戸籍)謄本を収集して、相続関係説明図を作成します。
そして、遺言執行者は、相続財産の調査をします。
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません(民法1011条1項)。
そして、遺言執行者は、相続財産目録記載の財産の名義変更等を行います。
遺言執行者の立場は、あくまで相続人の代表
遺言執行者と相続人との間には、委任に関する規定が準用されます(民法1012条3項、1020条)。
遺言執行者は、相続人に代わって、遺言の内容を実現します。
遺言執行者は、故人の遺産管理、遺言執行手続き行動の一切の権利義務をもつ
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
遺言執行者は、遺言書に記載された内容を実現するための職務を遂行します、
遺言執行者を指定する義務はない?!
遺言者は、遺言執行者を指定することができます(民法1006条1項)。
しかし、遺言執行者を必ず指定しなければならないものではありません。
遺言執行者を選任することで、相続にかかわる手続きがスムーズになる?!
遺言執行者が選任された場合、遺言執行者は、直ちに任務を行わなければなりません(民法1007条1項)。
ですので、遺言執行者がいれば、相続人及び相続財産が確定しますので、スムーズに手続が進みます。
遺言書に相続人廃除や認知についての記載があれば遺言執行者が必要になる
遺言執行者は、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をしたとき、遺言者の死後に、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法893条)。
遺言による認知の場合、遺言執行者が、その就職の日から10日以内に認知届をしなければなりません(民法781条2項,戸籍法64条)。
相続人の廃除、遺言による認知については、遺言執行者を選任しなければなりません。
相続でもめそうな時も遺言執行者が非常に役に立つ
相続手続がもめそうな場合には、遺言執行者を指定のするのが望ましいです。
例えば、相続人が誰か不明な場合、所在が明らかでない場合、遺言執行者を指定しておき、遺言執行者に調査をしてもらうべきです。
また、相続財産が明らかでない場合、貸付金等を回収しなければならない場合等、手続が必要な場合には遺言執行者を指定することで、遺言の内容を実現してもらうことができます。
遺言執行者がいなくても良い具体的なケースとは
遺言による認知、相続廃除・その取消しをする場合以外は、必ず遺言執行者が必要というわけではありません。
相続人間の仲が悪くなく、協力して相続手続を進めることができる場合には、あえて遺言執行者を選任する必要性は乏しいです。
遺言執行者になれる人、なれない人とは?
未成年者及び破産者は、遺言執行者になることができません(民法1009条)。
しかし、それ以外の者であれば、相続人や受遺者でもなることができます。
信託銀行も遺言執行者になることができます。
遺言執行者を選任する方法とは?
遺言執行者を選任するにはどのような方法があるのかを解説します。
遺言による遺言執行者の指定
遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項)。
ですので、遺言執行者は、遺言で指定することができます。
第三者による遺言執行者の指定
遺言者は、遺言で、遺言執行者の指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項、2項)。
家庭裁判所による遺言執行者の選任
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができます(民法1010条)。
遺言の効力がない場合、遺言執行者の選任の申立てが却下されることも
遺言の効力がない場合、遺言を執行する必要はありません。
ですので、遺言執行者の選任の申立てをした場合、却下されることがあります。
遺言執行者がいないときは家庭裁判所に申立てすれば遺言執行者を選任することが可能
遺言者が遺言で遺言執行者を指定していない場合は、家庭裁判所に申立てをすることになります。
では、誰が申し立てられるのか、どのように行うのか、解説します。
申立人にはどういう人がなれる?
遺言執行者の選任の申立てができるのは、利害関係人になります。
利害関係人とは、相続人、受遺者、相続債権者等になります。
申立先はどこになる?
申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
最後の住所は、除票の写しで確認することができます。
申立てに必要な費用とは?
・執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分が必要になります。
・郵券については、裁判所ごとで金額が異なります。ですので、申立てをする前に裁判所に確認するのが良いでしょう。
申立てに必要な書類とは?
遺言執行者の選任の申立ての必要書類は、申立書の他に、次のとおりです。
・遺言者の死亡の記載がある戸籍謄本
・遺言執行者候補者の住民票又は戸籍の附票
・遺言書の写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
・利害関係を証する資料、相続人の場合、遺言者と申立人との関係が分かるものが必要です。
申立書の書式や記載例は?
申立書については、裁判所のHPにありますので、こちらを参考にするとよいでしょう。
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_18/index.html
申立書の作成などは司法書士などの専門家に依頼することも可能
司法書士は、申立人に代わり、裁判所に提出する書類の作成をすることができます。
遺言執行者を選任するメリット/デメリットとは?
遺言執行者を選任することでどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
メリット①死後を安心して任せられる
相続人間の仲が悪ければ、相続手続を円滑に進めることは困難です。
このような場合、遺言執行者を選任しておけば、遺言執行者が手続を進めてくれますので、円滑に遺言内容を実現することが期待できます。
メリット②遺産を相続人が好き勝手にすることを避けられる
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条1項)。
そして、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができなくなります(民法1013条)。
ですので、相続人が勝手に相続財産を自由にすることができなくなります。
デメリット①遺言執行者が断る可能性がある
遺言執行者に指定・選定されても、必ず遺言執行者になる必要はありません。
ですので、遺言者が指定した者が、遺言執行者のへの就職を断った場合、遺言執行者がいないことになります。
デメリット②遺言執行者が任務を遂行しないもしくはできない可能性がある
遺言執行者になった者が、円滑に手続を進めるとは限りません。
特に、相続人や受遺者等が指定された場合、手続に慣れていないため、なかなか手続が進まないことがあります。
遺言執行者を選ぶ際の注意点とは?!
遺言者が遺言執行者を指定する際、どのような点に注意するべきか解説します。
選任する前にあらかじめ遺言執行者候補へ承諾をもらう
遺言者は、遺言執行者を指定する前に、候補者にその旨伝えるのが良いでしょう。
そうすれば、遺言執行者を引き受けてもらうことができます。
また、遺言執行者の報酬についても事前に説明しておくと、紛争の防止になります。
相続財産がどの程度あるかを事前にしっかりと把握してから遺言執行者を選ぶ
遺言執行者は、相続財産の処分等を行います。
相続財産次第では、遺言執行者を相続人又は受遺者にせずに、専門家にすることが望ましい場合もあります。
ですので、相続財産を把握しておくことが非常に重要です。
あらかじめ相続人となる人を調査、確認しておく
遺言者は、誰が相続人になるのかをあらかじめ確認するのが良いでしょう。
相続人間の仲が良く、手続をスムーズに進めることが期待できる場合、あえて専門家を遺言執行者に指定する必要性はありません。
反対に、相続人間で仲が悪い場合、相続人が協力して手続を進めることを期待できないこと、紛争になる可能性もありますので、専門家に任せるのが望ましいでしょう。
遺言執行者を誰にするか決定するうえで、相続人が誰かを確認しておくことが非常に重要です。
弁護士などの法的手続きに詳しい人にお願いする
相続人間の仲が悪いため、紛争になることが見込まれる場合、弁護士等の専門家に依頼するのが良いでしょう。
専門家であれば、相続人間の事情を踏まえ、手続を進めることが期待できます。
遺言書作成の段階から、専門家と相談しておく
遺言書を作成する際には、遺言執行者を指定するか、遺言執行者の指定を第三者に委託するのが一般的です。
このような場合、遺言書作成の段階から、特に専門家を遺言執行者に指定する場合には、相談をしておくのが望ましいです。
また、遺言書作成の段階から専門家が入ることにより、遺言者の死後、速やかに遺言の執行がなされることが期待されます。
遺言執行者を複数名選任することも可能
遺言執行者を複数名選任することもできます(民法1006条1項)。
遺言執行者が複数名いる場合、その任務の執行は、遺言者がその遺言に別段の意思票をした場合を除いて、過半数で決します(民法1017条1項)。
認知と相続人廃除の指定がある場合は必ず遺言執行者が必要になる
遺言執行者は、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をしたとき、遺言者の死後に、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法893条)。
遺言による認知の場合、遺言執行者が、その就職の日から10日以内に認知届をしなければなりません(民法781条2項,戸籍法64条)。
相続人の廃除、遺言による認知については、遺言執行者を選任しなければなりません。
具体的にどういう人を遺言執行者として選任すべき?
遺言執行者といっても、具体的に誰を選任することができるか、どのようにして候補者を決めればよいのかを解説します。
相続人や受遺者を遺言執行者にすることが一般的
遺言執行者には、相続人又は受遺者を指定することが一般的です。
相続人間で争いのない場合、相続人間で協力すれば、相続手続を進めることができますので、遺言執行者を専門家にしておく必要性が乏しいからです。
弁護士を遺言執行者として選任する方がよい場合
相続人間の仲が悪く、紛争になる可能性がある場合、遺言執行者として弁護士を選任するのが良いでしょう。
また、遺言による認知や相続人の廃除・その取消しをする場合、裁判所による手続が必要となりますので、弁護士を選任するべきです。
司法書士を遺言執行者として選任する方が良い場合
相続財産の中に不動産がある場合、司法書士に依頼するが良いでしょう。
司法書士は登記の専門家ですので、相続登記の手続をスムーズに進めることができます。
行政書士を遺言執行者として選任する方が良い場合
遺言者が遺言執行者を専門家に依頼したい場合で、費用を抑えたい場合、行政書士に依頼するのが良いでしょう。
行政書士は、弁護士や司法書士より、一般的に費用を抑えることができます。
信託銀行や銀行を遺言執行者として選任する方が良い場合
遺言者がどの専門家に依頼すればよいのか分からない場合、信託銀行や銀行を選任することが考えられます。
もっとも、信託銀行や銀行は、専門家に依頼した場合よりも報酬が高額になります。
ですので、専門家、相続人、受遺者を指定するのが良いでしょう。
遺言執行者の報酬はどうやって決まる?
遺言執行者は、報酬をもらうことができるのか、どのくらいの報酬をもらうことができるのか解説します。
遺言執行者を相続人や受遺者にした場合の一般的な報酬相場は?
相続人や受遺者等の一般人に依頼する相場は、専門家より低い10万円~20万円というのが多いようです。
専門家に依頼するよりも費用を抑えることができます。
遺言執行者を専門家や信託銀行などにした場合の一般的な報酬相場は?
弁護士又は司法書士に依頼した場合、30万円~というのが多いようです。
これに加えて,相続財産の総額により,数%が加算されます。
行政書士に依頼した場合,20万円~というのが多いようです。
相続財産の総額により報酬が高くなるのは,弁護士及び司法書士と同じです。
信託銀行に依頼する場合、遺言書作成を含むプランに加入することになります。
プランに加入したうえで、遺言執行を依頼する場合、105万円~となっているようです。
遺言執行者を変更、解任することはできる?!
遺言執行者を解任することができるのか、遺言執行者が自らの意思で辞めることができるのか解説します。
遺言執行者の意思で辞任
遺言執行者は、正当な事由があるとき、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができます(民法1019条2項)
相続人などの利害関係者からの申立て
遺言執行者の解任は、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所にその申し立てを行う必要があります(民法1019条1項)。
解任の申立ては任務を怠ったなどの正当な理由がなければならない
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときに解任することができます(民法1019条1項)
まとめ
いかがでしたでしょうか。遺言執行者の選任、指定は非常に重要です。しっかりと遺言執行者の役割を理解して、効果的な遺言執行者を選任、指定しましょう。