親族がお亡くなりになったことが確実である場合に、認定死亡という制度があります。
どのような場合に認定死亡が使われるのでしょうか、また、失踪宣告等の制度とは何が違うのでしょうか。
今回は、認定死亡という制度について、解説していきます。
▼この記事でわかること
・死体が確認できない場合でも、要件を満たせば認定死亡により、戸籍上死亡と認定させることができる
・認定死亡は死亡の可能性が極めて高くなければ認められない
・認定死亡によって「婚姻関係の解消」や「相続の開始」が発生する
認定死亡とはどういう制度?!戸籍法上の制度?!
認定死亡とは、海難事故、航空機事故、震災、火災などによって遺体の確認ができないものの、死亡の可能性が極めて高い場合に、戸籍に死亡が記載される制度のことをいいます。
戸籍に死亡が記載された場合、その記載の日時に死亡したという、事実上の推定が認められます。
この認定死亡は、戸籍法89条を根拠としています。
参考
戸籍法89条
水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。
認定死亡はなぜ必要なの??
なぜ、認定死亡という制度が必要なのでしょうか。
人が亡くなった場合、一般的には、医師が死亡の確認をします。
しかしながら、海難事故、航空機事故、震災、火災などによって遺体が確認できない場合などには、医師が死亡の確認をするといったことができません。
このように死亡が確認できない場合には、法律上亡くなったことにはならないとすると、遺された人たちが困る場合があります。
例えば、配偶者が再婚できない、相続人が遺産を取得できない、生命保険を受け取れないといったことが考えられます。
そのような事態を避けるためには、遺体によって死亡が確認できないとしても、死亡の可能性が極めて高い場合には、法律上死亡したものと取り扱う必要があります。
そのための制度が、認定死亡です。
認定死亡として認められる要件とは?!
認定死亡の要件は、法律により定められているわけではありませんが、水難、火災その他の事変によって死亡した可能性が極めて高い場合に利用される制度です。
認定死亡の手続き方法は?!
水難、火災その他の事変によって死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をします(戸籍法89条)。
この報告に基づいて、戸籍に死亡が記載されます(戸籍法15条)。
この手続により、認定死亡がなされ、戸籍記載の日時に死亡した旨事実上の推定が認められます。
認定死亡成立の効果とは?!
官公署の報告により戸籍に死亡が記載されることにより、認定死亡となります。
それでは、認定死亡によりどんな効果があるのでしょうか。
死亡者の婚姻が解消される
認定死亡により、死亡したと扱われることから、配偶者との婚姻関係は解消されます。
したがって、その配偶者は、再婚することができるようになります。
相続が開始される
認定死亡により、死亡したと扱われることから、その者の相続が開始します。
したがって、その者の相続人は、遺産を取得することができるようになります。
認定死亡の場合の注意点とは?!
このように、認定死亡の制度によって、死亡したものと扱われるため、再婚や相続の手続を進めることができます。
では、認定死亡の場合に、注意した方が良い点はあるのでしょうか。
認定死亡の場合の葬儀はどうなる?!
認定死亡を受けた場合でも、葬儀を執り行うことはできますし、通常の死亡の場合と大きく異なることはありません。
もっとも、通常の葬儀と異なり、遺体のない状態で葬儀を行うことになります。
火葬を行わないことになりますので、そのことは事前に葬儀場に確認をした方が良いと思います。
認定死亡を受けた後で生存していることがわかったらどうなる?!
認定死亡を受けたとしても、後に生存していることが分かった場合には、戸籍の記載は訂正されます。
そして、死亡したことを前提としてなされた行為は、なかったものとされます。
例えば、夫Aと妻Bが婚姻関係にあったところ、夫Aが認定死亡を受けたとします。
認定死亡により、夫Aが死亡したものと扱われますので、夫Aと妻Bの婚姻関係は解消し、夫Aが所有していたマンションを妻Bが相続することになります。
この場合でも、夫Aの生存が分かった場合には、婚姻関係の解消はなかったものとなり、婚姻関係は継続していたことになります。
また、夫Aの相続も発生していないことになるため、妻Bは夫Aに対してマンションを返還することになります。
それでは、夫Aの生存が判明する前に、妻Bが、夫Aの相続により取得したマンションを、他人Cに対して売った場合にはどうなるのでしょうか。
この点については様々な見解がありますが、妻Bも他人Cも夫Aの生存を知らなかった場合には、他人Cは夫Aに対してマンションを返さなくてもよいとの見解が有力です。
認定死亡と失踪宣告の違いとは?!
認定死亡と似ている制度に、失踪宣告という制度があります。
認定死亡と失踪宣告は、どんな共通点があるのでしょうか。
また、認定死亡と失踪宣告には、どのような違いがあるのでしょうか。
認定死亡と失踪宣告には共通点がある!!
認定死亡は、遺体の確認ができない場合に、戸籍上死亡したと記載され、戸籍記載の日時に死亡したという事実上の推定が認められる制度です。
失踪宣告は、失踪者の生死が明らかではない場合に、所定の時に死亡したものとみなす制度です。
どちらも、死亡が確認できないときに、法律上、死亡したものと扱う制度という意味で、共通点があります。
このような共通点がある認定死亡と失踪宣告ですが、次に説明するような相違点もあります。
期間が違う?!
認定死亡と失踪宣告との間には、認められるまでの期間に違いがあります。
▼認定死亡と失踪宣告の認定期間のちがい
認定死亡 | その時から死亡された ものとして扱う |
普通失踪 | 7年間生死が不明 |
特別失踪 | 危難が去って1年間 生死が不明 |
認定死亡では、戸籍に死亡が記載された場合には、そのときから、死亡されたものとして扱われることになっており、特別期間が定められているわけではありません。
他方、失踪宣告の場合には、その種類によって期間が定められています。
まず、普通失踪は、不在者の生死が7年間明らかではないときに認められます。
そして、普通失踪の場合には、生存が証明された最後の時から7年間の期間が満了した時点で、死亡したものとみなされます。
次に、特別失踪は、戦争や船の沈没等、死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、その危難が去った後1年間明らかでないときに認められます。
そして、特別失踪の場合には、危難が去った時点で、死亡したものとみなされます。
このとおり、失踪宣告の場合には、その種類によって、期間が定められています。
死亡の確実性という点の違いがある?!
認定死亡と失踪宣告との間には、死亡の確実性という観点に違いがあります。
▼死亡の確実性の違い
認定死亡 | 死亡した可能性が 極めて高い |
失踪宣告 | 生死が不明 |
認定死亡では、死亡の可能性が極めて高い場合に利用される制度です。
他方、失踪宣告は、「不在者の生死が明らかでないとき」に利用される制度です。ここでいう、「不在者の生死が明らかでないとき」とは、生死の証明ができないことをいいます。
したがって、失踪宣告の場合には、死亡の可能性が極めて高いといったところまでの確実性は求められていません。
認定機関が違う?!
認定死亡と失踪宣告との間には、それぞれを認定する機関に違いがあります。
▼認定期間の違い
認定死亡 | 死亡地の官公署 |
失踪宣告 | 家庭裁判所 |
認定死亡は、官公署が死亡地の市町村長に死亡の報告をし(戸籍法89条)、戸籍に記載されることによりなされます。
他方、失踪宣告は、利害関係人が家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所が審判することによりなされます(民法30条)。
このとおり、認定死亡、失踪宣告を行う機関が異なります。
法的効果の違い?!認定死亡の方が法的効果は弱い!
認定死亡と失踪宣告との間には、法的効果に違いがあります。
認定死亡の効果は、戸籍に死亡が記載されることにより、反証がない限り、その記載の日時に死亡したという事実上の推定が認められるというものです。
あくまで推定ですので、反証があった場合には、覆ることになります。
失踪宣告の効果は、死亡したものとみなされるというものです。
死亡したものとみなされることから、失踪者の生存が確認できた場合でも、直ちに失踪宣告が取り消されるわけではありません。
後述のとおり、家庭裁判所による失踪宣告取消の審判が必要となります。
根拠となる法律が違う
認定死亡と失踪宣告との間には、根拠法令に違いがあります。
認定死亡の根拠法令は、戸籍法89条と言われています。
失踪宣告の根拠法令は、民法30条及び同31条です。
参考
(失踪の宣告)
第30条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第31条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
後から生存が確認できた場合の違いは?!
認定死亡と失踪宣告との間には、生存が確認できた場合に違いがあります。
認定死亡の場合には、生存が証明された場合には、戸籍の記載が訂正されます。
失踪宣告の場合には、失踪者が生存していたとしても、直ちに失踪宣告は取り消されません。
失踪宣告は、失踪者本人又は利害関係人が、家庭裁判所に対して失踪宣告の取消しを申立て、家庭裁判所が失踪宣告取消しの審判をすることにより、取り消されます。
迷ったら弁護士に相談
認定死亡にからむ相続問題に悩んだ場合には、まずは弁護士に相談するのはいかがでしょうか。
多くの相続問題の経験のある弁護士であれば、相続に関するお悩みを解決することができるかもしれません。
早いうちだからこそ、手を打てる場合もあります。
相続問題にお悩みの際には、ご遠慮なさらず、弁護士にご相談ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
認定死亡という制度を利用することで、相続をスムーズに進められる可能性があります。
相続が身近におこりそうな場合には、認定死亡という制度を理解しておいて損はないでしょう。
愛知 孝介(弁護士)
日本弁護士連合会所属 弁護士登録番号54061号
弁護士登録後、大手法律事務所に入所。
相続案件を中心に、年間100件以上の法律相談を受け、
解決策を提案する。相続案件にあたっては、
税理士、司法書士、宅建士等の他士業と連携のうえ、
数多くの案件を解決に導く。
事業承継プランの策定、遺言作成を始めとする
相続発生前の紛争回避策の構築を得意とする。
遺産分割協議及び遺留分侵害額請求にあたっては、
クライアントの要望の実現に向け、
粘り強い交渉を行い、調停・裁判を遂行する。