今期の業績がかたまってきた頃、無事に利益を出した個人事業主やフリーランスが頭を悩ませるのは、「少しでも節税できないか」ということではないでしょうか。
うまく使えば節税となる「短期前払費用の特例」をご紹介します。
また短期前払費用の特例以外にも、フリーランスや個人事業主が活用できる節税対策は非常に多くあります。
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短期前払費用の特例って何?
短期前払費用の特例とは、前払費用のうち特定の条件を満たすものは資産に計上せず、支払った時の必要経費・損金にしても大丈夫ですよ、という特例です。
本来翌年度の費用は、当年度の必要経費・損金にはできませんが、この特例を使えば必要経費・損金にでき、その分だけ所得を減らすことができるため、税金が安くなり節税になるのです。
ただし、注意点など落とし穴も色々あります。
今回は短期前払費用の特例について徹底解説いたします。
前払費用とは役務提供を受けていない前払い
前払費用とは役務提供を受けていない前払いを指します。
と言われても、ちょっとイメージがわきにくいですよね。
ここでいう「役務提供を受ける」は、「サービスを受ける」と読み替えてもらってかいません。
通常、サービスを受ける・対価を払うという行為は、同時期になるパターンが多いですよね。
レストランで食事をして会計をする。タクシーを利用して代金を払う、という具合です。
つまり、前払費用とは契約で継続的にサービスを受けるための支出のうち、まだサービスを受けていない分に対応する支出のことをいいます。
ちなみに、税務上は例えば定期購入の水の代金の前払は役務の提供ではなく、商品の購入の前払いであると判断され、前払費用ではなく、前払金だとされています。
参考
前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち、その事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいいます。
前払費用は、原則として、支出した時に資産に計上し、役務の提供を受けた時に損金の額に算入すべきものです。
(引用:国税庁「短期前払費用として損金算入ができる場合 1.前払費用」)
例えば個人事業主が7月に事務所を借りて、向こう1年分(翌年6月まで)の家賃120万円を7月に支払ったとします。
この場合、7月の支払時は7月分1か月分はすでに役務提供を受けているため賃借料などで処理しますが、8月~6月分の11カ月分は、7月時点では前払費用として会計処理します。
7月の支払時の会計処理
賃借料10万円 / 現金預金120万円
前払費用110万円
その上で8月になれば、その11カ月分の前払費用のうち1か月分を賃借料に振り替えます。
賃借料10万円 / 前払費用10万円
これを毎月繰り返すことになります。
したがって、12月末時点では、1月から6月分の6カ月分が前払費用として残ることになります。
(個人事業主は1月から12月までの期間で決算を組むと決まっているため、この例では1月から6月が翌年分になります。)
前払費用と前払金の違いは?
ここまでをいったん整理しましょう。
前払費用を理解するためには、前払金との違いを考えるとわかりやすくなります。
前払費用と前払金の違いを下表にまとめました。
▼前払費用と前払金の違い
前払費用 | 「サービス」に対して前払した費用で、サービスをまだ受けていないもの。 |
前払金 | 「サービス以外」に対して前払した費用。実質的に商品購入のことが多い。 |
短期前払費用とは?
前払費用のうち、支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかるものを支払った場合は、その前払費用を短期前払費用とよびます。
短期前払費用の特例を使えば支払時に全額損金にできる!
短期前払費用のうち、一定の条件を満たすものは、その支払った時に全額損金すなわち経費とすることができます。
これを短期前払費用の特例とよんでいます。
参考
法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められます。
ただし、借入金を預金、有価証券などに運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、たとえ1年以内の短期前払費用であっても、支払時点で損金の額に算入することは認められませんので注意してください。
(法基通2-2-14)
(引用:国税庁「短期前払費用として損金算入ができる場合 2.短期前払費用 ※1:前払費用」)
短期前払費用の特例が使える対象の範囲や要件は?
短期前払費用の特例を使うには、前述のとおり一定の要件を満たす必要があります。
短期前払費用の特例の要件
- 前払費用の要件を満たしていること
- 支払った日から1年以内に役務の提供を受けるものであること(期間の要件)
- 毎期継続して経費に計上すること(継続の要件)
- 収益と対応する経費ではないこと
以下、それぞれの要件について詳しく見ていきますね。
要件①期間の要件
まずは期間の要件についてです。
保険であれば、4月から3月までの1年分の保険料を3月に支払った場合は期間の要件に該当します。
3月に5月から4月までの保険料を支払った場合ですと、1年の範囲を超えてしまうので要件を満たせない、ということになります。
要件②継続の要件
次にその費用の支払いが規則的に継続していること。
保険料にしても、今年は1年分一括払いにして、来年からは月払いにしよう、というのは認められないので注意が必要です。
収益の計上と対応させる必要があるものは認められないので注意
企業の売上のためにかかった経費など、収益と対応関係にある費用については、特例が認められていません。
たとえばアパートを所有し、それを貸し出して家賃収入を得ている不動産管理会社の場合、『受取家賃』と『支払家賃』は対応関係にあります。
そのため、『受取家賃』は毎月、対応する月の分だけを計上し、『支払家賃』については1年分を一括払いして、「短期前払費用」の特例を適用して翌1年分まで計上する、ということはできません。
具体的にどういう場合に認められて、どういう場合に認められないの?徹底解説!!
前述の要件をすべてクリアする必要がありますので、短期前払費用の特例に該当するのは、主に以下のような支払いに限られます。
短期前払費用の特例に該当するもの
- 地代、家賃、駐車場代
- 生命保険料、損害保険料
- 保守料
- 特許権、商標権の使用料
- 看板広告代
- レンタルサーバー代
逆に特例として認められないのは、以下のようなケースです。
間違いが起こりやすいポイントのため、注意が必要です。
認められないもの
- 弁護士、税理士などの顧問料
- 雑誌の年間購読料(電子版を除く)
- リスティング広告料
- 転借賃料
- 財テク目的の借入金利息
それぞれ見ていきましょう。
・弁護士、税理士などの顧問料
弁護士、税理士などへの顧問料は、毎年変動します。
つまり、時間がかかれば値段があがったり、内容によって変動します。
したがって、等質・等量のサービスではないため、継続の要件にひっかかります。
・雑誌の年間購読料(電子版を除く)
雑誌の年間購読料は、サービスの提供ではなく商品の購入であると判断されます。
したがって、前払費用ではなく前払金となるため、短期前払費用の要件を満たしません。
リスティング広告料
リスティング広告は前払しますが、クリックされるたびに課金される従量課金制です。
したがって、継続的に同じ額が計上されるものではないため、継続の要件にひっかかります。
・転借賃料
こちらは、先ほどの説明の通りです。
収益に対応する費用になるため、短期前払費用の特例は利用できません。
・財テク目的の借入金利息
こちらは借入金利息を支払ながら、それを利用してお金を稼ごうとしているため、収益を得るための費用と判断されます。
したがって、収益に対応する費用であるため、短期前払費用の特例は利用できません。
短期前払費用の特例を使って、税金を減らす方法は?
短期前払費用の特例を使える要件は理解できました。
では、具体的にどういった場合に、この特例を利用して節税につなげられるのでしょうか。
短期前払費用の特例をどう利用したら節税になるの?
具体例としては、以下のようなケースです。
利益がでている年の12月に、駆け込みで1年前払いのレンタルサーバーを借りる。
これが1年で12万円だとしたら11万円は本来翌年度以降の費用であるはずですが、今年度に費用にすることができ、11万円の所得分が節税になったといえます。
税務調査が来ても大丈夫!!短期前払費用の特例を使ったときに、税務署がチェックするポイントを解説
利益がでているから年末に短期前払費用をある程度発生させることは悪いことではありません。
ただし明らかに駆け込みで費用を計上していることは、税務調査がきた場合すぐに見抜かれます。
その場合、本当に短期前払費用の要件を満たしているのか?とツッコミが入る可能性があります。
ですので、4つの要件に照らして問題ないのか?そのための証拠書類はそろっているか?を必ず確認しておきましょう。
特に特殊な費用を短期前払費用の特例で利用している場合は、契約書のみならずサービスの実態を表す納品物なども保管しておくと安心です。
短期前払費用の特例は、会計処理を簡単にするために作られた制度
実は、短期前払費用の特例は、会計処理をする実務者を楽にするために考えられた制度なのです。
法人税法の補足として存在する法人税基本通達
法人税の補足として制定された法人税基本通達では、短期前払費用の特例について、2-2-14条において次のように示されています。
参考
「前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。」
ここの最後の「認める」というのが実はこの制度の考え方を示しています。
本来前払費用は翌年度に費用になるものです。
短期前払費用の特例はその本来の処理をせずに、特別に支払った日に費用にしてよいといっているのです。
国税庁が短期前払費用の特例の制度を設けた趣旨は、企業会計の実務を税務でも使えるようにするため!
実はこの短期前払費用の特例という制度は、重要性の原則と会計処理の手間を考えた特例なのです。
まず重要性の原則を説明します。
重要性の原則というものが、企業の会計では許されています。
これは重要性が低いものは、実務の手間を考えて、省略してもよいよという企業会計というルールの中にある制度です。
実はこの制度を税務にも取り入れたのが、この短期前払費用の特例なのです。
継続的に発生する短期前払費用を支払った時に費用とすることを認めなかったとしても、2年目以降の費用計上額は実質的に一緒になることから、初年度のみ費用計上の金額がずれるためそもそも重要性は低いといえるのです。
例)7月から1年分を前払で120万円支払っている短期前払費用の処理
①短期前払費用の特例を使った場合
初年度:120万円
2年目以降:120万円
②短期前払費用の特例を使わなかった場合
初年度:60万円(7月から12月の6カ月分)
2年目以降:120万円
重要性が低いわりに、前払費用を毎年管理するのは実は結構手間がかかります。
サービス提供が継続されているが、1年分を前払いにするようなものは保守料など意外にたくさんあります。
このように、本来重要性が低いのに手間がかかるものを、簡単にしてあげるための制度が、短期前払費用の特例なのです。
また短期前払費用の特例は、個人事業主やフリーランスがおこなえる節税対策のひとつにすぎません。
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まとめ
短期前払費用の特例を活用すれば、毎月の支払の手間も減り、今期の費用として節税対策となります。
短期前払費用を正しく理解して、節税に役立てましょう。